Kampec Dolores解説 by 北里義之氏

音場舎の北里義之さんがKampec Doloresについてミクシイの日記で解説してくださいましたので転載します。こちらで把握してない知識がちりばめられ、音楽性を的確に紹介しています。

1980年代のヨーロッパで,アメリカからの圧倒的な輸入超過になっていたロックの流通状況を変えようと,英国のレコメンデッド・レコードが一念発起して開拓し始めた独自の配給ルートは,それまで英語だけに限られていたロックの世界に,自分たちの母国語で歌う欧州各国のオリジナル・ロックを紹介するという流通革命をもたらした。来日公演直前にあるハンガリーの老舗プログレ・バンド“カンペッツ・ドローレス”も,アルバム制作を始めた80年代の後半から,このレコメン・ルートをたどって知られるようになったグループのひとつである。これまでに,Nico(vo)のバックバンドを務めたり,エイミー・デナイオ(acc)と別動隊を結成するなど,その活躍はプログレ・ファン周知のところだ。ちなみに今回グループに同行して来日するイシュトヴァーン・グレンチョーは,サバドシュ・ゲオルギー(p)やドレッシュ・ミハーイ(sax)という錚々たるジャズ・グループのメンバーで,ハンガリー・ジャズ界では著名なサックス・プレイヤーである。ファンには彼の生演奏が聴けるのも嬉しいところ。
公演初日にあわせ,12月8日新譜で,日本のプログレ専門レーベル“ポセイドン”から彼らの来日記念盤『母なる大地,父なる空』(2005年11月録音/PRE-003)がリリースされる。若い世代のサローキ・アーギ(vo)とも親交がある紅一点の歌姫ケンデレシ・ガビが歌詞を書き,メンバー全員で曲作りするという音楽は,プログレによくある重厚長大な観念の世界を構築するようなものではない。決して強迫的でない変拍子や,幻想的なヴォイスの響きなど,プログレ萌えする要素をしっかりと入れつつ,同時にカリンバやリコーダーなど繊細な響きを持った小物楽器も使って,全体をローテクやブリコラージュ(手作り)のあたたか味を持った親しみやすいサウンドで包んでいる。レコメンの原点ここにありと言えるだろう。ガビはいつものようにハンガリー語で歌っているが,かつてのようなトラッドの要素を加えたアレンジは前面化しておらず,アルバムは特にハンガリーを意識させることのない軽妙な仕上がりになった。   2005.12.7