そして夢は終わった...

グレイアンドピンクツアーはライブを重ねるごとに成長し、17日の大阪公演の演奏が一番よかった。リチャードとデイヴが日本にきてからリハーサルを開始したので、とにかく時間がないことは最初から承知の上。でも、そんなことは楽しみにして見に来てくれるお客に関係ない。メンバー一同全力で突っ走った一週間だった。音楽上のディレクションはリチャードが担当していたが、9フィートアンダーグランドはデイヴが指示を出していた。リチャードは、メンバー、楽器、PA、スタッフ、ホールなどの条件に合わせて毎日細かくディレクションしていたように思う。こうしたアジャスト力はライブの出来、不出来にはかなり影響する。
去年デイヴと話し合って始めたプロジェクトだったけど、実現までには紆余曲折だった。「キャラバン曲は今さらあまりやりたくないから減らしてくれ」(おいおい、話が違うだろ)とか、「キャラバンが同時期に来日するんなら客を取られちゃうじゃないか」(いいから自信を持てよ、あんたのヴォイスがあれば百人力だって)とか、「パイの曲なんか演奏するのはやだよ」(そのなこと言わないで、ちょっとでいいからさ)とか。でも、結局演奏した時間にすると、キャラバン曲は当初予定の2倍くらいあった。なんのかんの言っても、キャラバンには愛着があるんだと思う。シンクレア2人のライブならキャラバン曲がしっくりくることも、もちろん知っているだろう。
オパビニアの3人は、2年前のリチャードのライブではナーバスになっていたリチャードを盛り立てるだけで精一杯だったが、今回はリチャードとデイブのコンディションがよく、キャラバンミュージックを難なくこなしソロパートで主張するところは自然に主張していた。この人たちには、どこかに書かれていた「意地」というようなつまらないこだわりはないよ。リスペクトしあえる段階まできた、というところでしょう。現地調達で安上がりだからバックについている、と思われているけど、技術、対応力、カンタベリー・ミュージックへの理解力、などを兼ね備えているミュージシャンは、世界中探しても僅かなのではないか。
ところで、グレイアンドピンクは1回の日本ツアーで終わりになりそう。リチャードもデイヴも、キャラバン曲を1回のライブで沢山やることには今や興味がないし、2人組んでの仕事からは新しい展開が見えてこない。ポピュラーな作曲家としての活動に主力を起き始めたデイヴと、ロック・フィールドでの仕事を拡大しようとしているリチャードでは話が合わなくなっている。だから、2人のシンクレアによる15年ぶりのキャラバン曲演奏は、日本でだけ見ることができた1回限りの夢として語り継がれることになるだろう..... さあ、次はナショナルヘルスだー。